グローバルマクロ投資にうってつけの日

株、債券、金利、通貨、コモディティに関する投資メモ

関税の正しい使い方と原油ダンピングの解消

トランプ大統領の経済政策で感心したのは初めてのことである。

www.bloomberg.co.jp

これは確かに効く。

 

今回の原油価格の急落(50ドル→20ドル)は、二つの要因で生じている。

コロナウイルスが原因で生じた原油需要の減少

50ドル→30ドル

OPEC+(ロシアとサウジアラビア)の減産調整失敗による原油供給の増加

30ドル→20ドル

コモディティ価格は僅かな需給のギャップで大きく動くにもかかわらず、需要が大幅に減り、供給が大幅に増えるとなれば、価格の暴落は必至であった。

 

協調減産をロシアが飲まなかったのは、シェール企業を潰す狙いがあったためともいわれている。要はダンピングでシェール企業を締め出してしまおうということだ。シェール企業の台頭で2012年ごろから原油価格は低下してきたが、ロシアやサウジアラビアが有する従来型油田の採掘コストよりも、採掘が難しくスケールメリットも働きづらいシェール企業の採掘コストは高く、原油価格が低迷するとまずは目障りなシェール企業が淘汰されることになる。そして、多数のシェール企業を有する米国が最も損をすることにもなる。

米国は原油価格を上向かせるため減産調整を再度行わせるべく行動していたが、米国が最も得をする選択をロシアが簡単に飲むわけがない。これから一体どうなるのだろうと考えていたところ、このニュースが報じられた。

 

もし原油に輸入関税が課せられるのであれば、原油のマーケットは米国とそれ以外とに分断されることになる。

まずは米国市場だが、関税により輸入が行われなくなる分だけ米国内の原油価格は上昇することになる。ただし、シェール革命後の米国はネットで輸出超過となっているため、輸出超過部分を国内で消化しなければならなくなり(輸出が禁じられるわけではないが、経済合理性に従って原油価格の高い米国内で販売されることになる)、米国内の原油価格を下押しする。全体としてどうなるかは米国の原油の輸出入の状況をグロスで確認しなければ分からないが、おそらく今よりましな状態にすることができるのだろうし、なによりもロシアのダンピングを無効化することができる。これまでとは違い、米国はダンピング価格の原油を消費しないし、ダンピング価格で原油を販売することもないからだ。原油価格が上昇して元に戻らない限り、米国の原油価格は米国内の需給によって決まっていく。

米国外の市場は、米国の輸出超過分だけ供給が減って価格の上昇要因になり、産油国は得をするが、そもそもダンピング価格で原油を販売しているので大損の状態は続いてしまう。米国市場に影響を及ぼさないダンピングは、日本のような消費国への寄付と同じである。産油国にデメリットしか生まないダンピングをロシアが続けるインセンティブは、もはやない。

 

こう考えると、米国はロシアに何も差し出さずにダンピングを終わらせられることを示唆したことになり、非常に賢い戦略であると思う。関税の正しい使い方であり、私は思いつかなかった。