グローバルマクロ投資にうってつけの日

株、債券、金利、通貨、コモディティに関する投資メモ

イベントトレーディング入門

パンローリング社がイベントトレーディング入門という本を出版していて、期待しないで読んだが意外と面白かった。

ペスト、スペインかぜ、Sarsの事例が紹介されており、共通する事象は以下だとまとめられている。

・もっとも疲弊する地域で、最も感染が広まる。

・流行地から逃げ出す人々が、流行を広げる。

・過去のパンデミックでは、感染の波を繰り返して、世界中に感染が広がった。

 

「過去のパンデミックでは、感染の波を繰り返して、世界中に感染が広がった」というのは、恐ろしいし考えさせられる。

私は3月25日の時点で日本の感染のピークは過ぎたと考えていたが、その予想は翌日に裏切られることになった。翌日も翌々日も感染者は増加したのだ。上記に沿って考えると、感染のピークを迎えていた他国からの入国者が感染を広げたということになるわけだ。中国の感染者も不気味に増加している。

そうだとすれば、今はまだ感染の波の繰り返しの渦中にいるということになる。

「いま」は世界中に感染が広がった後なのか、感染が広がる最中なのか?分からない。

景況の悪化とドル高は、企業債務危機通貨危機へと伝播するのか?分からない。

 

さて、もし米国が原油に関税を課すとすると、米国内の需給で米国内の原油価格が決まることを先日書いた。

私の予測と真っ向から反する見解が以下である。

www.globalmacroresearch.org

 

 予測の違いについてはいいのだが、米国が関税を課してもロシアが交渉材料を求めてダンピングを続ける、というシナリオは面白い。そんなことは思いつかなかった。

もしそうなるとして、何が起こるか?

WTIの価格が上がり、北海ブレント等それ以外の原油価格は今のままだ。米国内の原油価格は、ダンピング下にあるマーケットよりも高い値段が付くのが道理であるはずだ。つまり、WTIとそれ以外の原油価格の価格差は拡大する。

では、WTI買いブレント売りのトレードは成立するか?

米国が関税を課しても米国内での原油価格が十分上がらず、シェール企業が倒産する可能性はある。しかし、ダンピングがなくなったマーケットの原油価格と、関税を課した後の米国内原油価格とは大して変わらない水準となる点に注意が必要である。

大雑把に時系列で考えよう。米国の原油の輸出入が均衡しているとする。原油市場は自然な需給状態で価格が決まっているとする。忌々しいウイルスのせいで需要が減って原油価格が低い価格水準で均衡したとする。米国外でダンピングが始まるとする。原油市場は歪められた需給で均衡して原油価格がさらに下がったとする。米国が原油に関税をかけたとする。米国の原油市場は外国と分断され、米国原油価格は「需要減少後かつダンピング前」の価格に戻って均衡する。米国外の原油価格は下がったまま。このようになる。

つまり、関税後の米国内原油価格はダンピング前の原油価格と同水準であり、その原油価格の水準でシェール企業が倒産するのであれば、たとえダンピングがなかったとしてもシェール企業は倒産するのである。つまり、シェール企業は需要不足で倒産した、というだけの話である。

したがって、関税を課せばダンピングの継続がシェール企業が存続するか否かに影響を及ぼさなくなるし、シェール企業の倒産が米国の痛手でも、ダンピングの継続は痛手とはならない。そして、ダンピング継続はロシアの交渉材料とはならず、プーチン大統領が間抜けでなければロシアがダンピングを続けることもない。

故に「トレードは成立しない」のである。

厳密には米国の需給の内訳を調べないと分からないが、見込みがなさそうなのであまりやる気がしない。誰か代わりにやってくれないものだろうか?