グローバルマクロ投資にうってつけの日

株、債券、金利、通貨、コモディティに関する投資メモ

原油ロング株式ショート

この2、3日で原油ロング株式ショートのポジションを取っているところだ。

原油については、協調減産という材料の出尽くしをおおむね消化しきって、純粋な需給に基づく均衡価格に落ち着いたように見える。現時点でのリスクは2つある。

1つは、在庫があまりにもだぶついてスポット価格が下落するリスクだが、可能性はあまりない。顕在化したら相当の下落になるだろうが、基本的に心配していない。

もう1つのリスクは、需要の回復と価格上昇が遅れて、ポジションを維持するコストが多大に発生する可能性だ。先物やそれに類似したコモディティ(現物保有型以外のETFも含まれる)で投資する場合、期近よりも期先の価格が高い(コンタンゴ)ときには、ポジションを維持するのにコストがかかる。これは現実的なリスクとして存在している。

現時点での原油スポット価格が約20ドルで1年期先の価格が33ドルと、すさまじいフォワードカーブを描いている。マーケットは1年間で60%以上の価格上昇を予測しているということだ。こういうことは過去にあったのだろうか?

1年期先の価格33ドルが正しいとする場合、スポット価格は1年で20ドルから33ドルに上昇することになり、スポット価格で原油を購入すれば利益が約束されているように見えるが、そうではない。スポット価格で「本当に」原油を購入するということは、今の時点で原油を購入し、それをどこかに貯蔵し、1年後に売却する、ということである。そんなことは不可能だ。したがって、スポット価格のポジションを1年間維持するためには、原油が自宅に配送されないように(ただの比喩で、実際には取りに行く)、毎月先物を買い替えていく必要がある。そして、そのコストは現時点では期近と期先の価格差であると推定される。

それでも維持コストを受け入れてスポット(とされる商品)や期近の先物を購入するということは、たとえば33ドルへの上昇が1年かからずに生じると予測する、ということである。私は1年後の価格を予想していないが、スポット付近と期先の価格差はあまりにも開きすぎていて、それが原油を購入した理由である。具体的には5月限や6月限のものを購入しているから、言い換えれば1~2か月後の原油価格はマーケットが思っているよりも上昇する、と予測していることになる。上がったら買い、下がったら売るという短期トレードを繰り返してきたが、そろそろ少しは腰を据えてポジションを持つことになりそうだ。

 

株式のショートは、マーケットが状況を楽観し過ぎていると感じたのが一番の理由であり、もう十分に反発したというのがもう一つの理由である。リスクは、ただ事でない金融緩和がバブル的な価格上昇を生みだすことだが、仮にそうなったとしてもコロナの直撃を受けた業種が易々と上昇するとは思えないから、マーケット全体を平均すれば当面は大した上昇にはならず、インデックスをショートするリスクは原油をショートするリスクほどには大きくない。

 

そのほかに、何年かぶりに個別株を購入している。個別企業の分析などしたくないから、日本株で低PER低PBR高財務体質のものをスクリーニングにかけて、コロナの影響を受けにくいであろう業種を適当に僅かづつ買っている。おそらく長期保有することになるだろう。インデックス投資中央銀行の買い入れが行き過ぎたせいか、地方市場の上場銘柄はどうかしているとしか思えない価格水準のものが散見される。長期で各銘柄を少しづつ持つなら流動性は必要がないから、こういうものも買っていこうと考えている。

個別株をすべて売却してから数年、長期保有目的で株式をロングすることはなかった。こんなに高値で買うのは間違っていると考え続けてきたが、ようやく報われることになった。私は何も間違っていなかった。

原油20ドル割れ

予想どおり原油は20ドルを割った。株価も下落後の最高値から少し下がってきた。

見立てで行くとどちらもまだ下がるということになるが、ショートするなら株式の方がよいだろう。株価は3割下がりうるが、原油は3割下がるかどうか分からない上に、急反発して1分で1割は平気で上がる。

もしもの話だが、原油が3割下がったら15ドルくらいになり、そうなると10ドルを割ってさらに下がると思う。オプションが使えたらと思うが、アマチュアは取引できない。

コロナの中の世界

目論見通り、きわめてスムーズに減産調整は終了した。アメリカは何も差し出す必要がなかった。

www.bloomberg.co.jp

 

原油価格は22ドルから25ドルに上昇し、その後22ドルに戻り、今は23ドルだ。3月に株価が底値付近にあった当初、協調減産が報じられた時には、原油は22ドルから28ドルに跳ね上がった。そんな期待に溢れる減産調整が実現してもこの有り様である。

減産調整は、何も解決しなかった。これが現実だ。

原油価格は供給過剰というフィクションの上に成り立っていたということだし、問題の本質は需要不足ということでもある。原油の20ドル割れも現実味を帯びてきたように思う。歴史的にも、コンタンゴは簡単には解消されないようだ。

大した金額ではないが、原油のポジションはまたも頂点付近で決済することができた。ショートが遅れたが、こちらも今現在は利益が出ている。これも大した金額ではない。

株式のショートも利益が出て決済した。大した金額ではない。

頻繁なトレードを再開したのは3月後半だったが、証券会社からは月間取引額77百万米ドルに応じたキャッシュバックがあった。そんなキャンペーンがあるとは知らず、寝る間を惜しんで取引した結果だ。取引額のことは気にしたことがなかったが、おそらく過去最大だと思う。もちろん、自己資金を山ほど回転させた結果だから、取引額に比べれば利益はとても小さい。 

確信は持てないが、今の見立ては「マーケットは基本的に楽観し過ぎている」というものだ。冷静に考えると、マーケットが過小評価しているのは紫外線がウイルスに与える影響くらいのような気がする。スペイン風邪のような例外はあるが、夏になればウイルスの増殖が弱まるというのはまっとうな話なのに、まったく耳にしない。

金価格は脱出速度を超えて、宇宙へと旅立っていった。中国の感染者数は、不気味な増加を続けている。日本のピークはまだ先だ。最貧国にコロナウィルスの検査キットはあるのだろうか。経済よりも人命を尊重する余裕はあるのだろうか。ないに違いない。

売り上げを失い、人件費を垂れ流す企業の何割が倒産するだろうか。ドル高の直撃を受けた新興国の経済は、どれほどのダメージを受けているのだろうか。ハードデータはまだない。FEDはモラルを捨てて全員を救うと宣言したが、全員を救うことと誰も救わないことに、どれほどの違いがあるのだろうか。

世界はどうなってしまうのだろうか?

マーケットの関心は企業業績へ

マーケットは、NYの感染縮小に反応しないようだ。

jp.reuters.com

感染者数を通じて経済への影響を推測してきたマーケットが、経済そのものを観測し始めたということになるのかもしれない。そうだとすると、株価のトレンドが変わることになるだろう。

原油は23ドルを下回っている。少しだけWTIを購入する。

オイルタンカーのチャーター価格は高いままだ。売れない原油を貯蔵庫から海上へ移してしまおうということだろうか。売れない原油が輸送先に到着したら何が起こるのか?再度の20ドル割れも考慮しなければならない。さすがにありえないことだが、理論上原油価格はマイナスにだってなりうるのだ。売れない環境汚染物質は、ただのゴミだ。

これまでの考え方に縛られてはならない。起こりうることは何だって起こるのだ。

まだまだチャンスは転がっている。

イベントトレーディング入門

パンローリング社がイベントトレーディング入門という本を出版していて、期待しないで読んだが意外と面白かった。

ペスト、スペインかぜ、Sarsの事例が紹介されており、共通する事象は以下だとまとめられている。

・もっとも疲弊する地域で、最も感染が広まる。

・流行地から逃げ出す人々が、流行を広げる。

・過去のパンデミックでは、感染の波を繰り返して、世界中に感染が広がった。

 

「過去のパンデミックでは、感染の波を繰り返して、世界中に感染が広がった」というのは、恐ろしいし考えさせられる。

私は3月25日の時点で日本の感染のピークは過ぎたと考えていたが、その予想は翌日に裏切られることになった。翌日も翌々日も感染者は増加したのだ。上記に沿って考えると、感染のピークを迎えていた他国からの入国者が感染を広げたということになるわけだ。中国の感染者も不気味に増加している。

そうだとすれば、今はまだ感染の波の繰り返しの渦中にいるということになる。

「いま」は世界中に感染が広がった後なのか、感染が広がる最中なのか?分からない。

景況の悪化とドル高は、企業債務危機通貨危機へと伝播するのか?分からない。

 

さて、もし米国が原油に関税を課すとすると、米国内の需給で米国内の原油価格が決まることを先日書いた。

私の予測と真っ向から反する見解が以下である。

www.globalmacroresearch.org

 

 予測の違いについてはいいのだが、米国が関税を課してもロシアが交渉材料を求めてダンピングを続ける、というシナリオは面白い。そんなことは思いつかなかった。

もしそうなるとして、何が起こるか?

WTIの価格が上がり、北海ブレント等それ以外の原油価格は今のままだ。米国内の原油価格は、ダンピング下にあるマーケットよりも高い値段が付くのが道理であるはずだ。つまり、WTIとそれ以外の原油価格の価格差は拡大する。

では、WTI買いブレント売りのトレードは成立するか?

米国が関税を課しても米国内での原油価格が十分上がらず、シェール企業が倒産する可能性はある。しかし、ダンピングがなくなったマーケットの原油価格と、関税を課した後の米国内原油価格とは大して変わらない水準となる点に注意が必要である。

大雑把に時系列で考えよう。米国の原油の輸出入が均衡しているとする。原油市場は自然な需給状態で価格が決まっているとする。忌々しいウイルスのせいで需要が減って原油価格が低い価格水準で均衡したとする。米国外でダンピングが始まるとする。原油市場は歪められた需給で均衡して原油価格がさらに下がったとする。米国が原油に関税をかけたとする。米国の原油市場は外国と分断され、米国原油価格は「需要減少後かつダンピング前」の価格に戻って均衡する。米国外の原油価格は下がったまま。このようになる。

つまり、関税後の米国内原油価格はダンピング前の原油価格と同水準であり、その原油価格の水準でシェール企業が倒産するのであれば、たとえダンピングがなかったとしてもシェール企業は倒産するのである。つまり、シェール企業は需要不足で倒産した、というだけの話である。

したがって、関税を課せばダンピングの継続がシェール企業が存続するか否かに影響を及ぼさなくなるし、シェール企業の倒産が米国の痛手でも、ダンピングの継続は痛手とはならない。そして、ダンピング継続はロシアの交渉材料とはならず、プーチン大統領が間抜けでなければロシアがダンピングを続けることもない。

故に「トレードは成立しない」のである。

厳密には米国の需給の内訳を調べないと分からないが、見込みがなさそうなのであまりやる気がしない。誰か代わりにやってくれないものだろうか?

関税の正しい使い方と原油ダンピングの解消

トランプ大統領の経済政策で感心したのは初めてのことである。

www.bloomberg.co.jp

これは確かに効く。

 

今回の原油価格の急落(50ドル→20ドル)は、二つの要因で生じている。

コロナウイルスが原因で生じた原油需要の減少

50ドル→30ドル

OPEC+(ロシアとサウジアラビア)の減産調整失敗による原油供給の増加

30ドル→20ドル

コモディティ価格は僅かな需給のギャップで大きく動くにもかかわらず、需要が大幅に減り、供給が大幅に増えるとなれば、価格の暴落は必至であった。

 

協調減産をロシアが飲まなかったのは、シェール企業を潰す狙いがあったためともいわれている。要はダンピングでシェール企業を締め出してしまおうということだ。シェール企業の台頭で2012年ごろから原油価格は低下してきたが、ロシアやサウジアラビアが有する従来型油田の採掘コストよりも、採掘が難しくスケールメリットも働きづらいシェール企業の採掘コストは高く、原油価格が低迷するとまずは目障りなシェール企業が淘汰されることになる。そして、多数のシェール企業を有する米国が最も損をすることにもなる。

米国は原油価格を上向かせるため減産調整を再度行わせるべく行動していたが、米国が最も得をする選択をロシアが簡単に飲むわけがない。これから一体どうなるのだろうと考えていたところ、このニュースが報じられた。

 

もし原油に輸入関税が課せられるのであれば、原油のマーケットは米国とそれ以外とに分断されることになる。

まずは米国市場だが、関税により輸入が行われなくなる分だけ米国内の原油価格は上昇することになる。ただし、シェール革命後の米国はネットで輸出超過となっているため、輸出超過部分を国内で消化しなければならなくなり(輸出が禁じられるわけではないが、経済合理性に従って原油価格の高い米国内で販売されることになる)、米国内の原油価格を下押しする。全体としてどうなるかは米国の原油の輸出入の状況をグロスで確認しなければ分からないが、おそらく今よりましな状態にすることができるのだろうし、なによりもロシアのダンピングを無効化することができる。これまでとは違い、米国はダンピング価格の原油を消費しないし、ダンピング価格で原油を販売することもないからだ。原油価格が上昇して元に戻らない限り、米国の原油価格は米国内の需給によって決まっていく。

米国外の市場は、米国の輸出超過分だけ供給が減って価格の上昇要因になり、産油国は得をするが、そもそもダンピング価格で原油を販売しているので大損の状態は続いてしまう。米国市場に影響を及ぼさないダンピングは、日本のような消費国への寄付と同じである。産油国にデメリットしか生まないダンピングをロシアが続けるインセンティブは、もはやない。

 

こう考えると、米国はロシアに何も差し出さずにダンピングを終わらせられることを示唆したことになり、非常に賢い戦略であると思う。関税の正しい使い方であり、私は思いつかなかった。

バーゲンセール(結末2)

原油はポジションを閉じて終了した。22ドルから28ドルへ狂ったように30%近く上昇した。たったの15分の出来事だった。

ほぼ天井近くで売却し、すぐさまショートし、1.5ドル下で買い戻した。完璧な取引だ。

何があったのかはまだ分からないが、何があったとしても十分な上昇だった。このまま持ち続けようとは少しも思わなかった、というよりもう我慢できなかった。上昇の間、文字通り歯を食いしばってポジションを持ち続けていた。ひどく疲れた。